「えぇ、これから夏休みに入るのですが…」




暑い教室内に、長々と続く先生の声。

生徒たちは面倒くさそうに先生の話を聞いていた。
次第に暑さに耐えられなくなってきた生徒の一部は、手で仰ぐ姿が見られる。
そして、その姿も増えてきたころに、約一時間にも及ぶホームルームが終わり、解放された生徒たちは一斉に動き出した。




「おう、美菜!夏休み、予定ないんだろ!?」

「なに、その決め付けた言い方は。私だって、用事くらい…」




鞄を机の上に置き、荷物を整理していた美菜の手が止まった。
必死に甲斐への返答を考えたが思いつかない。


その美菜の様子に、甲斐はにこやかに笑うと、向かい合う状態で顔を近づけた。




「本当はないんだろ?」

「……くぅ…な、なんで分かるのよ…」




悔しげに答えるが、目の前にある甲斐の姿に美菜は動揺した。

予定がないことを見抜かれたからか、それとも思ったよりも距離が近いからか、美菜には分からない。

鼓動は徐々に早くなっていき、何度も深呼吸をするが、心の中は妙に嬉しくてたまらない。




「美菜のツヨガリ、なんてな。分かるって、嘘ついたって俺には分かる」

「え、えぇ…嘘って…大げさ」

「はは。まぁ、お見通しってことさ。……って、美菜、顔赤いけど大丈夫?」

「え、あ、赤い…?あ、あぁ、暑いからね。ホント、うん」

「あぁ、確かに。今日はホントに暑いよな」




美菜は自分の顔に手を当て、熱くなった頬を隠す。
手から伝わってくる熱さは、夏の暑さとは違う温かさを感じる。




「よし、ジュース買いに行こうぜ」

「はっ?」




甲斐は制服のポケットから小銭を取り出すと、そのまま握りしめて鞄を持ち、足早に教室を出た。
突然のことに呆然となっていた美菜も、焦るように鞄を持ち甲斐の後を追いかけた。