「何て言うか、夏じゃないとこんな空見れないし、蝉の声だって聞けない。そして、この暑さだってそう。…つまり、季節を感じてるってことだよ」

「はぁ、まぁ、何となくしかわかんねぇ…」

「え~、なんか寂しいなぁ」




苦笑いを浮かべ、再び遠くを見る美菜を、甲斐は見つめた。

いつからこんなに話すようになったんだっけ。


ふと思うが、今の関係に慣れすぎているからか思い出せない。


初めは話すのも戸惑いがあったはずなのに、今では当たり前のように側にいる。


こんなにも気の合う友人は少ないかもしれない。


甲斐と美菜は、いつもこうやってまったりとした放課後を送っていた。

そして、その雰囲気を突如破る声が入ってくる。




「あ、いた!甲斐!今日の放課後委員会あるって言ったじゃん!ほら、夏休みが終われば体育祭なんだから。立って!」

「まだ夏休み始ってないんだからいいじゃん」




勢いよく教室の扉が開かれ、一人の少女が甲斐に近づいてくる。

あまりの雰囲気に、美菜は小さく笑い、甲斐を促す。




「ほら、甲斐。お迎え。ちゃんと行きなよ」

「はいはい」




甲斐は立ち上がり、ベランダへ通じる扉の前に立ちはだかる人物の元へ歩き出した。




「悪い、沙紀。忘れてた」




面倒臭そうに歩く甲斐の姿を、美菜は目で追った。




「もう、早く!他のメンバーは集まってるんだよ!」

「はいはい」




甲斐は沙紀に手を掴まれ、引っ張られるように教室から連れ出されてた。
騒がしかったのは一瞬で、姿が見えなくなると、途端に沈黙が美菜を襲う。

ベランダに残された美菜は、教室へ入り、自分の席にある鞄を手に取った。