『酔って暴れ出した客がなぜか知らないが懐からカミソリ出してきて。とある女郎に恨みがあったって。客がそいつに向かってカミソリ振りかざしたら、菊里がかばったんです。そしたら……首の脈に当たって』


総作様は、眉間にしわを寄せて辛そうな顔をしている。


『あたしはそんとき、人が死んでいく瞬間を初めて目の当たりにしました。
……怖かった。しかもよりによって菊里だなんて。』


……即死だった。


そのあと、その客は叫びながら脱走し、
そのまま姿をくらましてしまった。


『あたしはそんとき、母親には抱かなかった恨みっちゅー感情が…ふつふつと沸き上がってきたんです。』


菊里が殺されたのは、
戦友……親友が殺されたのと同じようなことだったから。


『菊里は、いつか立派な花魁になって、立派な簪つけてドレス着て
この滝檎の街を歩きたいっていってたました…
…街の人々を…楽しませるような花魁になりたいって……』


いつの間にかあたしの瞳からは
涙がポロポロこぼれていた。


あたしが菊里を忘れたことなど、一度もない。

ドレスを着るたび、着物を羽織るたび
菊里のことを思い出して。


"今日もお前のために頑張るから"
"あたしの働きっぷり見守っとけよ"

いつの間にか菊里にそんなことを伝えてから店に出るのが当たり前になっていた。


「あなたにとって、本当に大切なお方だったんですね」

総作様は、悲しそうな、複雑そうな顔をしていた。

『………はい。とても大切な存在でした。あの時は、ただ恨みしかなかったけど…』