プラチナブルーの夏

 なんで、『二十二歳』なの?
 
 二十二歳から、路上生活を始めたの?
 
 第一何がきっかけで、そうなったの?

 
 心の底からどんどん疑問が湧いては来たけれど、

それらの質問はなんとなく言葉には出せなかった。
 
 一瞬で白い煙が暗闇に溶け込むように。
 
 その時のトモロウは、やけに儚げに見えたから。

 
 そしてあたしはその夜、どうしてもどうしても帰りたくない、

という思いは変えられず、生まれて初めて外で寝る事になった。

「いいよって言うまでこっち見ないでね?」

「ん」
 
 あたしはトモロウとソッポを向き合って、

濡れて肌に貼りついた最高に脱ぎにくい服を

かなり苦戦しながら脱いだ。
 
 それからタオルで体中を拭き、貸してもらったカーキ色の、

でっかいTシャツを着た。
 
 あたしが着るとワンピースみたくなる。Tシャツの裾で

ヒザ小僧が隠れた。



「もーいいよ」

「あい」
 
 振り向いた瞬間、

「うーわ!!めちゃちっこいなミズキちゃん!!」
 
 またしてもトモロウの笑いと煙草の煙が、風に流されスゥっと

斜めに散りゆくように消えていった。

「そんな事ないよ。あたし、平均よりちょい低いくらいなだけだもん。

トモロウがおっき過ぎるんだよ絶対!身長、何センチ??」

「んー。たぶん180くらい」

「ほら~ぁやっぱり!!」
 
 あたしの言葉を聞いて、ワンコはニコニコ笑った。
 
 数時間ぶりに笑った。
 
 つられてあたしも笑った。
 
 笑う事ができるのが、気持ちよくて嬉しくて随分と長い時間、

二人で声を出して笑い合った。
 
 思わず笑いがこぼれる程の楽しさなんて、

 家を出たあの時には今後のあたしの人生にもう二度とないだろう。

無意識にそう感じてた。
 
 それくらい、絶望してたくせに。
 
 今鳴いたカラスって言うのはまさしくこの状態の事だ。

 だけどあたし、カラスでよかった。
 
ワンコがあたしをカラスにしてくれたんだ…。