「おまたせ。夜ご飯は?もう食べた後?」
 
トモロウが戻ってきてあたしはパッと鏡を閉じた。

「バイト先で…」

「じゃ、この鎮痛剤飲んでおきな。ちょっと強いけどかなり効くから」

「…ありがとう」
 
買ってきてくれたミネラルウォーターであたしは薬を飲んだ。

喉がからからに渇いていた事に、今さら気づいた。
 
それからトモロウはあちこちの傷についた泥や石粒を水で洗い消毒してくれて、

腫れた頬に冷えるシートを貼り、柔らかなガーゼを当ててくれた。

「とりあえずの処置だから、明日病院に行った方がいいと思うよ」

「……はい」
 
そういえば、明日もバイトがある。こんな顔じゃ暫く行けないから

店長と奥さんにも言わなきゃ…。

「おーい、聞いてた?」

「え?あ、ごめんなさい。聞いてなかった」
 
トモロウはちょっと笑って

「一緒に行く?明日。『干渉しない病院』知ってるから」
 
ちょっと遠いけど。と言った。

「……なんで?」

「へ?」

「あたし、干渉しない病院行きたいなんて言ってないのに」

「うーん。俺、今まで勘だけで生きてきたからなぁ。

…たぶんだけど、家の人にも誰にも知られたくないんだろ?」

「………」

「今日はとりあえずチャリと一緒に家の近くまで送るから。

明日の朝、またここにおいで」
 

本当に、わけのわからない夜だった。

襲われたこと、酷い怪我をしたこと、トモロウに再会したこと、

彼の勘がものすごく当たっていること…。
 

顔や胸の痛みで、逆に頭が妙に冴えてきた。

トモロウに送られてやっと家に着いた時は、バイトから上がったのは八時過ぎだったのに、

もう十二時をとっくに回っていた。
 
母親が家にいなくて本当に良かった。あたしは、汚れた服も着替えないまま

倒れこむようにベッドで眠った。

へとへとに疲れていた。