「チャリは後で俺が運ぶから。…あっ、そこ段差あるから気ぃつけて!」
 
ぼやける視界。左側がよく見えない。
 
歩くたびズキッ、ズキッ、と一定のリズムを保ちながら痛む顔。
 
暗闇。
 
トモロウの声。
 
足音。
 
体温。
 
その手に導かれた先には、オレンジ色の薄明かりが見える。
 
あれは……?

「ここ。ここで待ってて。すぐそこにドラッグストアーあるから、

冷えるシートとか色々買ってくる。他に何か欲しいものある?

飲み物とか…」
 
言われるままに、あたしは薄明かりにぼんやりと浮かぶ川岸の

大きなビニールシートの上に座った。

「ううん…何もいらないです。…それより、ここは…?」

「ここ、今俺が住んでるとこ。前に会った時言わなかったっけ?」

 
え?

 
確かに「鏡川ら辺にいるから」と言う、謎の言葉は聞いたけれど。

「住んでるって…トモロウって、ホームレスなの?」
 
あまりにも驚いて、つい不躾な質問をしてしまった。
 
しかしトモロウは別段ムッとするような様子もなく、

少し困ったような笑顔で

「ん、まーそんな感じだよ」

と答えた。
 
…とにかく、行って来るから。すぐ帰るから待ってろよ!!
 
そう言ってトモロウは、慣れた足取りで暗闇の向こうに消えていった。