カナからは、夏休みに入ってもう三、四回遊びに誘うメールが来たけれど、

やっぱりどうにも気が乗らず、バイトを口実に断り続けていた。
 
けれどもあたしは別にカナのことを嫌っているわけではない。ただ、怖いのだ。
 
人懐っこいところ、よく笑うところ、どういうわけか、あたしを好きになってくれたところ。

なんだか全てがリツコに重なって見えるから。
 
もう、あんなふうに大切な友達を失くしたくない。

だからもう、大好きな友達なんて作りたくないだけだ。
 

母親が退院するまでの間は、本当に快適だった。なのでほとんど家にいた。

早く高校を卒業して、一人暮らしがしたいという気持ちが強まった。

 
その一週間のうち一度だけあたしは気まぐれで、

滅多に入ったことがない母親の部屋に入り掃除機をかけていた。
 
すると、小さな本箱に同じ形の小さなアルバムが収まっているのを見つけた。

何の気なしにそれらをパラリとめくってみると、幼い頃のあたしの写真がびっしり貼ってあった。
 
アルバムだなんて…。
 
あたしの知ってる母親とは、ずいぶんイメージの違うことをしているな、と

少し驚きながらページをめくり続けていたら、ところどころ写真が抜けている所がある。

きっとパパが写っている写真だけを処分したのだろう。
 
小さなあたしは笑っている。母親の腕に抱かれながら。ブランコに乗りながら。

手をつないで公園を歩きながら。
 
それらを見てもあたしは、特に何も感じなかったけれど、ただ一つ、これだけはわかった。


母親は『普通の家庭』が欲しかったのだろう。

お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいる。
 

ただそれだけのことが、彼女にとっての切実な願いであったのだろうと。
 
去っていった夫を憎み、その娘を憎む事でしか、心にくすぶった思いを

未だに発散できないままなのだ。
 

---バカバカしい。
 

あたしはアルバムを少し乱暴に棚に戻し、再び掃除機をかけ始めた。