「…何してん?」
 
リツコが、起きた。良かった。起きてきてくれた。

私は涙が溢れそうになりながらユウスケさんの腕を振り払った。

「リツコ…」「ミズキ」
 
私の声に被さるように、リツコは冷たい響きであたしを呼んだ。

「あんた、あんた何してん?人の彼氏と」
 
えっ……
 
絶句したまま答えられずにいると、今度はユウスケさんに縋るようにリツコは言った。

「こんなん…嘘やんなぁ?ユウスケ。ミズキに、誘惑されたんよな。

魔がさした、だけやんなぁ?」
 
ユウスケさんは何も言わずに俯いていた。

そして、ユウスケさんの腕にしがみついたまま、リツコはゆっくりこちらを振り向いた。

泣いていた。

「あんたはやっぱり『オッパイちゃん』や!!

人の彼氏にまで色目使うなんて最悪や!!

ユウスケ紹介した私がアホやったわ!!」



その、瞬間。
  
その、言葉を聞いた瞬間。

あたしの場面はテレポーテーションしたかのように、真夜中の街に変わっていた。
 
フラフラと彷徨いながら、あたしはこれからどうしたらいいのか、

帰りたくもない家に帰るしかないことは分かっていたけれどーー

リツコを突然失って、どう生きていけばいいのかわからずに。
 
自分が泣いているのか笑っているのか真顔なのかさえ分からずに、

ただ道を歩き続けた。