一向にやまない、唇や手のひらの動きに身を任せ、あたしはカラダの力を抜き、

一旦抵抗を緩めてみた。
 
するとユウスケさんは、重ね合わせた唇の小さな隙間から

「……ごめんな………」
 
息だけの、微かな声でそう言って、やっとカラダを離してくれた。
 

ブーン…ブーン…ブーン…
 

再び訪れる、眠りの前に聞いた、静けさという名前の騒音と扇風機の羽音。
 
あたしはカラダを起こし、ユウスケさんと向かい合って座った。

「…どうして…?」
 
頭の中にグルグルと渦巻く無数の疑問と、じんわりと込み上げて来る腹立たしさと恐怖。
 
そして耳元で鳴り響く心臓の高鳴りと、初めてのキスや男の人にカラダを触れられた事に、

僅かながらも一時興奮してしまった、自己嫌悪を悟られないように。
 
あたしは極力冷静を装いながら、たったそれだけの短い質問を小さな声で問いかけた。
 
ユウスケさんは布団の脇で膝をついた姿勢のまま、両手の拳を太ももの上に置いている。

「…俺さ…リツコがいるやん」
 
さっきまでよりも僅かに拳を強く握り、ユウスケさんは何とも苦そうに口を開いた。

「でもな…ほんとはミズキちゃんの事、初めて会った時から気になってたんだわ」

(……この人とリツコは、口調がすごく似ているな……)
 
何を今さらこんな場面で思っているんだろう、あたし。
 
けれどもそれはあたしにとって、二人の仲がいい事を一番わかりやすく象徴している部分だって、ずっと思っていたんだ。