微かに八神くんの驚いた声が聞こえた。
「...でもそれじゃ、戸田のが...」
名前 知ってたんだ?!
普段接点がないから、苗字を呼ばれたとき心の中がじんわりとあったかくなった。
「っ、ううんっ! 平気!」
ぶんぶん、と手を振って
誤魔化すようににこっと笑顔を向ける。
「だって家近くて走って帰れる距離だから」
笑顔を浮かべたまま
八神くんの顔を見ないで、傘を渡した。
彼は戸惑ったけれど、一応受け取った。
「じゃあ、また明日ねっ!」
「あ、おい...!」彼があたしを呼び止めようとした。
それでも
ばいばい、と手を振って
雨の中 あたしはまっすぐ走った。
「早い...」
ぽつりと呟き
彼は傘へと視線を移した。
