カスカとユルカが育った村には一つだけ学校があった。

母親はそこに彼女達を通わせるために、たくさんの仕事をして、

たくさんの借金もした。

しかしカスカは思う。

あの頃が一番私達は幸せだったのではないか、と。

ユルカと手を繋ぎ、テレパシーでお喋りをしながら学校に通った。

みすぼらしい服ばかりを着ている双子をからかう男子は

ケツを蹴り上げて泣かしてやった。

もちろんそれはカスカの役目で、ストップをかけられるのは

ユルカしかいなかった。

そう。いつも「そろそろやめようよ」と言い出すのはユルカだった。

もちろん、テレパシーで。

カスカはユルカを誰よりも信じていたし、ユルカもまた同じだった。

双子達の心は固く結ばれていたのだ。


『今それが、頼りなく解けていくー』


ユルカは怖くないのだろうか。カスカには信じられなかった。

そんなバカなことが、あってたまるものか。

そう思うたびにあの水中に沈められていく息苦しさをリアルに感じ、

動悸が激しくなった。

今では夢に見なくても、その場面がくっきりと思い描ける。

あの川。あれは、登下校の途中にある透き通った綺麗な川だ。

時々道草をして、遊んでいたあの川。

細い腕。思っていたよりも地味な抵抗力。

ピチャパチャと跳ね上がる水音…。

「どうしたの?カスカ」

「えっ?」

ふいに、隣りのユルカに肩を掴まれた。

「顔色、真っ白だよ。大丈夫?」

「あ、…そう?大丈夫だけど…」

カスカはもう、薄々わかっていた。

ユルカと私の道は、これからは遠ざかる一方なのだと。

そしてあの水中に沈んだ自分によく似た女の子が、

いったい誰であったのかも。