小さな牢獄の中には簡素なベッドと毛布が一枚だけ畳んであった。

カイは俺は床で寝るから、と言って聞かなかったけれど、ユルカとしては

そういうわけにはいかなかった。

何度も説得をして、ついにカイが折れた時、ユルカは

自分が牢獄に入れられてる事すら忘れるほど嬉しく思った。

狭いベッドの毛布の中。

二人はピタリと背中を合わせて横になり、お互いの体温に包まれた。

「カイ、野原みたいな匂いがするね」と、ユルカが言うと、

「あんたはなんかミルクの匂いがする」と、返され、ユルカは密かに顔が真っ赤になってしまった。

「…それっていい匂い?やな匂い?」

「別に、いやじゃない」

月の明かりもない、無表情な部屋。

カスカと離れていることが、少しも不安じゃない自分が、ユルカには不思議だった。

「あのさ」

「えっ?」

「あんたたち、なんでここに入ったの?」

「なんでって………カイは?」

「俺?俺は赤ん坊の頃、この施設の門のとこに、粉ミルクの袋と一緒に

ボールみたいに丸めて置かれてたらしいよ」

「!」

びっくりして声にならないユルカをちょっと振り向いて、

カイは少しだけ笑った。

「そんなに驚くなよ。だから、俺はここに一番長くいる『S』なんだ」

「………」

「でも今日、なんかよかった」

カイの少し掠れた声が、ユルカの背中に響く。

「なにが?」

きっと彼の背中にも、ユルカの声は響いただろう。

「編み物してないと、毎日時間が経たなくてつらいんだ。

でも今日はあんたと話してたら気が紛れた」

それから何時間経ったのか。

いつの間にか少年と少女のお喋りは、ぽつりぽつりと続いた。


そして夜が明ける頃には、あっという間に二人は恋に落ちていた。