「なんなのそれ!?頭、おかしいんじゃないの!?」

次に、建物内でチャルのように叫んだのはーユルカだった。

見た目ではわからないだろうから、きっと私が怒鳴ったと皆は思うんだろうな、と横にいたカスカは思った。

バザーの間中、mother達が、どうしてアンコを一人ぼっちにしておいたのか。

どうして外に出た彼女をまた『レクリエーションルーム』に連れ戻したのか。

その理由は「アンコが『普通の人間』ではないから、人目に曝さないため」だとmotherは言った。

生温かい目をして、motherはユルカを宥めるように微笑んだ。

「彼女はもちろん、私達の大切な家族よ。でもね、端から見ると彼女は異形なの。

お客さん達も、驚いていたでしょう?施設としてもこれはとても苦しくて悲しい判断なの。

でも仕方がない事なのよ、カスカ」

………やっぱりカスカだと思っている。カスカは思わず笑いかけた口をきゅっと慌てて結んだ。

motherの言葉はますますユルカの逆鱗に触れたようだ。

「私はユルカよ。何が家族よ?だったらいい加減にカスカと私の見分けくらいつけてよ。

…だいたい自分だって十分『異形』じゃない。

明日からはダイエットフードでも食べて、ちょっとはマシなプロポーションになってみれば!?

ぶくぶくぶくぶく太ってないでさ!!」

…実はユルカ。普段はかなりおとなしく、カスカの後ろにそっと佇んでいる事が多いのだが、

自分の愛する仲間が馬鹿にされたりコケにされたりすると、

カスカの何倍もキツい言葉を発するクセがある。

サッとmotherの顔色が変わった。

「ユルカ。あなたの気持ちはよくわかったわ。

今夜は、皆と違う場所で食事をとって寝てもらいましょう。

もう少し、心を落ち着けるためにね」

しんと静まり返っていた部屋がざわついた。皆と違う場所ってどこ?

カスカは何かとても嫌な予感がした。と、その時。

「俺もmoherのデブ具合はアンコとそう変わらないと思う」

いつものように編み物をしながら顔も上げずに後ろの壁に凭れたカイが呟いた。

「しかもアンコの方がアタマ弱くても優しいぜ。

少なくとも、うそ臭い笑顔はしないし。motherより、よっぽど信用してる

よ、俺は」

いよいよ怒りで耳まで真っ赤になったmotherは

「カイ!あなたもユルカと同じ場所で過ごさせるわよ。いいの!?」

とヒステリックに怒鳴った。

「あはは~臨むとこだよなぁ、カイ。お前ここ来て何度かもう入ってるしな」

スイムの言葉にカイは頷いた。

「あんな部屋に閉じ込められたって少しも悪い気しねーよ。むしろ、愉快なくらいだ」

ーカイはきっと、ユルカを庇ったんだと思う。

その事を考えるとカスカは胸の奥で無数の小鳥達が暴れているような気持ちになった。

そしてカスカはここに来てから初めて、ユルカと離れ離れになった。