…水中にいる。もがいてももがいても少しずつ身体は水に沈んでいく。

「あんたが悪いのよ」

自分にそっくりな声が聞こえる。誰?目も、開けていられない。

苦しい。もう、やめようよ。また誰かが言う。死んじゃうよ。

本当に死んじゃう。

死んじゃうって誰が?私が?嘘。嘘でしょ?

思い切り力を振り絞って、一瞬水面に顔を上げた。そこにいたのは…

………私。ううん。違う。私によく似た女の子………

「ハッ!!」

目が、覚めた。カスカは肩で息をしながら、ふいに視線を感じて振り向いた。チャル。

「……どうしたの?」

白い細影は小声で言った。

「………」

「あたし、知ってるよ。ここんとこあんたって変。うなされてばっかりいるでしょ?」

「………」

「ユルカかカスカかわかんないけどさ。嫌な夢でも見てるんじゃない?

睡眠薬あげようか?眠りが浅いから、変な夢ばっかり見るのよたぶん」

「…ううん。いらない。ありがとう。…私、カスカだよ」

ユルカは身動き一つせず、静かに寝息を立てている。

カスカはチャンスだと思い、聞いた。

「チャルこそ…最近機嫌も悪いし顔色も悪いよ。何か、あったの?

心配事とか…」

身をよじり、小さなテーブルに置いてある煙草を手に取りながら

「心配事ねぇ…」とチャルは薄く笑った。

「心配と言えば心配かな。…でも、考えても仕方ないなって思う。

あたし、機嫌悪くしてた?ごめんね」

優しげで淋しげな。カスカをますます不安にさせるような返事だった。

「…何か、あったら言ってね。お願いだから、む…」

『向こうに行ってしまわないで』と言いかけて慌ててカスカは口を閉じた。

「ん。サンキュ、カスカ」

金の糸の髪に隠れて、チャルの表情は、わからなかった。