授業が終わると
傘を差して先生がいるであろう路地裏に向かった。
軒下に傘を差しながら煙草を吸う先生がいた。
「先生みーっけ。
そこまでして煙草吸わなくてもいいのに」
ふふっと笑って話しかけた。
「アオちゃんこそ、雨ん中わざわざ探しにこんでも」
「だって先生の事、好きなんだもん。」
雨音だけが響く。
「って、嘘だよ?!先生?」
少しの沈黙でさえ耐えられなくなって
嘘をついた。
きっと...嘘じゃないと言えないから。
嘘でも言ってみたかったから。
「アオちゃんあかんで〜
オッサンを誑かしたら。
ちょっとドキッとしたやんか。」
二人の笑い声だけが聞こえた。
先生が煙草を口に銜える。
先生を真っ直ぐに見て
一番訊きたかった事を尋ねる。
「先生、ご結婚されていませんよね?」
願いも込めて否定形。
先生の動きが止まった。
私がどうかしたのかと口を開く前に
「なんで?」
質問には答えず、ビルの隙間から空を見て聞く。
「塾の生徒内で先生が指輪してたって話題になってるから...」
本当は自分が一番気になっているくせに、正直に言えない自分が情けない。
「そっか...」
ふぅ...と煙草を吹かすと
「...してるよ。」
煙草の灰が落ちた。