彼方へ

「裏切ったんじゃない。

 フェリシア様を王妃にしてからも、どうしてもあなたを忘れられなかったって。

 そのことで、王妃様も随分苦しんでいたわ。

 だって、ラルフ王は、記憶を消されていたんだもの……」

そこまで言うと、エルフィノは、今度こそ立ち止まり、振り返ってこっちを見た。

「そんな馬鹿な!」

そう言って絶句しているエルフィノは、明らかに動揺していた。

無理もない……か。

急にこんな事聞かされて、信じろという方が無理なのだ。

今まで信じて来た事全てが。

そのせいでしてきた復讐……。

燃やし続けて来た憎しみが、

その全てが、

もう、どうやっても取り戻す事が出来ない……。

それらが今、エルフィノの心の中で、渦をまいて流れているのがわかる。

当然だと思う。

自分のしてきた事が、今までどれほどラルフ王を苦しめたか知れないんだもの。

今までの自分の支えを、今、一瞬にして失ってしまったんだから……。