彼方へ

「今から10年位前だったね。

 ボクが、お母さんに叱られて泣いてた時、後ろから、ボクと同じくらいの小さな女の子が元気づけてくれた。

 それが、はるかだった

 はるかはボクに言ったんだ。

『泣かないで。
 
 きっと大丈夫だから』って。

 泉は知ってるんだよね」

そう言って笑いかけ、けれども寂しそうな眼をして、クリスは再び話し出した。

「そうなんだ。

 あの時からボクは、はるかの事を見て来た。

 はるかの事を好きになったんだ。

 どんな事があっても守りたいって。

 誰にも渡したくないって……

 そう、思ってた。
 
 けど……」

そう言って、美しい眼を伏せ、やるせなさそうに呟く。

「不安なんだ。

 もう、はるかはボクの所には戻ってこないんじゃないか?

 王子の方へ行ってしまうんじゃないか。

 ……