あぁ、家に帰らなきゃ。

世間では家というものは「安心できるところ」。

あたしにとってはその真逆なんだ。

家に帰れば、あの母親がいる。




あたしの親はあたしが3才の頃に離婚。

父親の記憶はない。

それからは母と暮らし始めた。

母親はクスリの依存症だった。

毎日毎日、売人が部屋へやってきた。



ある日、学校から帰ってくると、

「クスリ…クスリがない…」

母親が暴れていた。

ただただ呆れるしかなかった。



「お前、いい加減にしろや」



母親の動きが止まり、あたしを見た。

「母親に向かって何いってんのよ?」

母親はあたしを睨みながら言った。

「今頃、母親づらすんなよ」

「産んであげたのに…」

母親はあたしをまた睨んだ。

「大体、あんたは産みたくて産んだ子じ
ゃないからね」

「あたしもお前に産まれたくなかった」

辛くも悲しくもなんともなかった。

大体はわかってたから。

あたしは財布と携帯と煙草だけを持って
家をでた。




さぁ、どこに行こう。

深夜の2時に泊めてくれる奴なんているだろうか。

あたしには、親戚もいない。

携帯の連絡先をみながら泊めてくれそうな奴を探した。

どいつもこいつもクズばっか。

仕方なく携帯をしまい、散歩することにした。

さすがにTシャツにショーパンじゃ、冬の寒さにはこたえる。



しばらく歩いて信号で止まった時、

「おーーーい!落としましたよーー!」

遠くから男の叫び声が聞こえた。

こんな真夜中に叫んでんじゃねぇよ…

「そこの青いTシャツのひとーーー!」

だいぶ絞ったなー…

あたしはなんとなく自分のTシャツの色をみた。


…青。



あたしは振り返った。

振り返った先にはこっちに走ってくる男の姿が見えた。

「…ハァハァ…ハァ…あの…ハァこれ…
ハァ…」

そう言って男が差し出したのは煙草。

え?いつのまに?

ポケットを探ると入れたはずの煙草がなくなっていた。

「…ありがとうございます。
すいません…」

「…ハァ…よかったぁ…ハァ」

とても息切れしていた。

相当前から追いかけていてくれたのだろう。

気付かなかった自分に反省した。

男は落ち着いたようで俯いていた顔をやっとあげた。

金髪に、170㎝以上はある身長。

くっきりとした二重の目に薄い唇。

男と3秒以上は目を合わせたまんまだった。

男は目をそらし、

「おっ俺、澤村爽介!」

急に自己紹介されたから少しびっくりした。

「あー…、植川龍樹です」

「タツキちゃん?」

「はい」

「俺のことはソウスケってよんで!」

「…はい。」

「連絡先教えてくれない?
あと、タメでいいから!」

「…うん、いいよ」

ソウスケという男とメアドを交換した。

これがあたしとソウスケの出会いだった。