「最近見るようになったって言ってたけど‥‥」
いつ頃からなの? と訊くつもりだったが、ぼくは言葉を中途で止めた。
まだまだ秘密のベールに包まれた部分の多い彼女に対して、あまり質問ばかりの方向性に会話をシフトさせると、彼女に退かれてしまうんじゃないかって、またぼくの小心癖が再発したからだ。
ところがあかりは、ぼくの言葉の続きを察してこう答えてくれた。
「十日ぐらい前からかなぁ」
「じゃあ、ぼくと最初に出会った日ぐらい?」
「あ、そうそう、その日の夜です」
あかりが言うには、キャバクラのバイトが初日で緊張していたのと、翌朝もファーストフードのバイトが入っていて、あまり寝付けず、睡眠時間が取れなかったらしい。
微睡みの中での夢うつつのような状態だというのも、ぼくの場合と酷似していた。
ぼくらはそうしてしばらく雑談を重ねた後、おつまみ程度になってしまった軽い食事を終えて、このお店を出ることにした。
駅前の大通りに続く路地裏を二人で並んで歩いていると、あかりはスタスタと2、3歩ぼくの前に出て、後ろ手を組みながら雑居ビルの間に開けた夜空をふと見上げた。
「ねえ、嶋さん」
「ん、どうしたの?」

