月のあかり

 
「そうだよっ」
 
 あかりは左手をシュシュっと振って見せた。
 そういえば一週間前に喫茶店でボウリングの話をしたときに、あかりがボールを投げる動作を振って見せたのも左腕だった。
 
「あかりってサウスポーだったんだ」
 
「うん」
 
 そのまま左手でぼくにVサインを送ると、戻ってきたボールを掴んで、また慌ただしく2投目をポトリとレーンに落とした。
 超スローで転がるボールは、微妙な回転がかかったまま1番ピンに当たり、パタパタと残りの9本を倒してしまった。
 
「やったぁ―!」
 
 まさかのスペアにぼくは唖然とした。
 あかりはその場で狂喜乱舞するように小さくピョンピョン飛び跳ねて、満面の笑顔で再びぼくにVサインを突き出した。
 
 なんて可愛いんだろう‥‥
 
 無邪気な彼女の仕草にぼくはすっかり陶酔してしまう。
 そして見事なスペアにハイタッチで歓迎するよりも、思わずこの場でギュッと抱き締めたくなるような欲情に胸を掻き毟られた。
 きっと同じ男性なら、こんな感情の高ぶりが理解出来るに違いない。
 それと同時に、勝負に徹する負けず嫌いのプライドがムクムクと頭をもたげ、投球する腕にはいつも以上に力が入ってしまった。