あかりはこの状況下でキャッキャとはしゃいでいる。
やがてアップテンポのBGMとDJ風のマイクアナウンスが鳴り響くと、ボールを持ってすぐにレーンの前に立ち、いきなり慌てふためくように投げ始めてしまった。
まるでせっかちな短距離走のスプリンターが、堂々とスタートをフライングするような彼女の突拍子もない行動に、ぼくは身体をヒクつかせて含み笑いをした。
「え、投げちゃダメなの?」
あかりは、ぼくがブラックライトの暗がりに紛れて笑いを堪えている姿を覚ったのか、不安そうに訊いてきた。
「いや、いいんだけど、そんなに慌てて投げなくても」
「だって音楽が鳴り止む前にストライクを出したら、何か景品が貰えるんじゃないの?」
「え、そうなの?」
「うーん‥‥分かんないけどぉ、多分そんなような気がぁ‥‥」
実際にそういったボウリング場の企画やイベントのようだっだが、ぼくらはそんなルールをよく分かっていなかった。
もっともいま投げたあかりのボールは、スルスルとレーン中央から逸れて、右端のピンを1本倒しただけだった。
振り返ってボールの行方と頭上のスコア画面を眺め、地団駄を踏んでいる彼女の後ろ姿を見て、ぼくはあることに気付かされた。
「あれっ、いま左手で投げなかった!?」

