男は力まかせに女の腕を引っ張り、自分の胸へと抱き寄せた。
女は全身を硬直させるように抱かれていた。
やがて男が女の艶やかな髪を愛しそうに撫でると、女は徐々に身体の硬直を解いた。
静寂に包まれたためいき色の空間には、次第に荒くなってゆく男の呼吸と女の鼓動が響いていた。
男の腕に包まれ、俯き加減だった女がゆっくりと顔を上げた。
『ま‥‥満央!!』
その顔を見て、ぼくは思わず声を上げた。
まるで首を絞められたような、苦痛に歪むしゃがれたぼくの声。
そして、目を懲らし改めて確認した男の横顔は、紛れもなく高梨の顔だった。
不思議なことに、二人はぼくの上げた声には反応しなかった。
ひょっとしたらぼくのほうが別世界の映像を見せられているだけで、彼らにはぼくの声は届いていないのかも知れない。
二人はお互いに服を脱ぎ合うと、厳かな沈黙の空気を纏ってベッドの上へと倒れ込んだ。
満央を呼ぶぼくの絶叫はすでに声にならず、身体は金縛りにあったように微動だも出来なかった。
「裕也さん」
そう呼ばれて高梨が応えた。
「舞」
舞‥‥‥ あれは舞?
ぼくは混乱した。
いま、目の前で組み合っている男女の幻影は一体何なのだろうか?
あれは満央ではなく、舞?

