彼女もまた、ぼくが満央に対して思っていたように、高梨が自分にとって相応しい相手なのかどうかを模索していたのだろう。
数年振りの再会の果てに、身体だけの関係に成り下がる。
それは他人から見たら、ひどく滑稽であり、遠回りで時間の要した《気付き》かも知れない。
でも長澤さんの気持ちの清算にとっては、それが何年掛かった難事業であったとしても、必要不可欠な時間のサイクルだったのだと思う。
「当て馬にされるのはもう辞めるの」
そう言って彼女は受話器の向こうで笑った。
無邪気な笑い声だった。
ぼくは満央の笑い声を思い出した。
満央はいま、どこかで高梨と無邪気に笑っているのだろうか。
他愛もない短い会話と挨拶を済ませると、長澤さんは「ありがとう」と言い、彼女のほうから静かに電話を切った。
ぼくは通話が切れてから、小さく「ありがとう」と返した。
それは、ぼくと長澤さんの傷を舐め合うような、奇妙な関係からの彼女の卒業を意味するものであり、取り残されたぼくから送るエールと、そこはかと無い寂寞な嘆きでもあった。
そして彼女との連絡の断絶は、満央の近況を知り得る手段を失うことを意味していた。
不安はさらに募る。
長澤さんというタガが外れたとき、高梨の欲望は満央へと一辺倒に注がれるに違いない。
そのとき満央は拒み続けることが出来るのだろうか?
《ねえ?》
幻聴のように満央の口癖が、ぼくの耳元でこだまする。
そもそも、なぜ満央は高梨の求愛を拒み続けているのだろう。
彼女も少なからず高梨に好意を寄せていたはずだ。

