月のあかり

 
 そしてその矛先がかつては舞に向けられ、いままさに満央へと向けられていることへの示唆でもあった。
 
「舞は裕也と夜をともにして、そのベッドの上で亡くなったんです」
 
 長澤さんの言葉はあまりにも衝撃的だった。
 
 それが高梨のせいかどうか分からない。
 ただ、いつの間にか眠るように息を引き取り、翌朝には冷たくなっていたのだという。
 先天性の心臓疾患というのがおおかたの死因とされたが、非常に稀なケースで、成人になるまでその症状は認められず、突然死という形で表れてしまったというのだ。
 
《同じ悲しみ》その言葉に秘められた深く暗い意味合いが、ぼくの背中に重たくのしかかる。
 
 満央の透き通るような白い肌を貪るように高梨が身を埋める。
 満央がそんな高梨の毒牙にかかることを想像するだけでも、ぼくにとっては死以上の耐え難い地獄の折檻だった。
 そして苦痛に歪む満央の表情が脳裏に浮かんだ。
 彼女はぼくとセックスをした時、何度か過呼吸のような状態に陥って苦しがっていた。
 ぼくは満央の身体に何か異常があるのではないかと、その時から気になっていた。
 まさか満央も姉の舞と同じような病魔の運命を抱えているのだろうか。
 そんな思いに燻ると、ぼくの胸も張り裂けるように苦しくなった。
 
 ぼくは話の続きを察したことを長澤さんに告げた。
 彼女はまだ話し足りなそうだったが、ぼくの制止で自分の話していた内容の陰湿さに気付いたようだった。
 また電話しますと言って彼女は沈黙の待機をした。
 
 じゃあと言い、ぼくはゆっくりと携帯の通話を切った。