「満央」 ぼくが呼び止めると、満央は防音扉の前でゆっくりと振り向いた。 直樹さん‥‥ 直樹さん‥‥ 彼女の言葉にならない言葉が、周波数の合わないラジオの音声のように、ぼくの耳元で擦れて響いた。 そして、笑顔にならない笑顔をぼくに向けて送り、暗闇の彼方へと吸い込まれてゆくように、防音扉の向こうへと消えていった。 その時から、ぼくにとっての満央という《満月》が、急速に欠け始めていた。 でも、そのことに気付くのは、もっと後になってからのことだった。