それは時に控え目で奥床しく、時に無邪気で天真爛漫に振る舞う彼女が、いままで明かしたことのない本音の断片であり、一人の女の子としての脆弱な一面の吐露なのだと思う。
 
 もっと深く探求した例題を羅列するならば、ぼくがそうであるように、男女の性別など関係なく、人はみな恋愛に不安を抱き、人生に、未来に不安を抱く。
 それが睡眠中に見る夢うつつのような不確かなものであっても、あるいは未来を具現化したいと願う純粋な希望の夢であったとしても。
 
 夢。
 
 未来。
 
 お互いに相応しい関係。
 
 そんなお題の込められた彼女の疑問の投げ掛けに、ぼくの記憶細胞の情報伝達が呼応した。
 タイムスリップしたかのような、あの懐かしい場面の再生。
 
 
『私、こういう仕事向いてないのかな‥‥‥』
 
 満央と出会ったばかりの頃、いきなりぼくに突き付けられた彼女のネガティブな疑問。
 その時、ぼくは瞬時にその回答を選別しようと、打算や駆け引きを不必要に巡らせたあげく、結局は彼女を想う気持ちで素直に答えた。
 それが唯一無比の正しい選択方法ならば、いまもそうやって素直な気持ちで答えるべきだろう。
 
「ああ、もちろん相応しいよ」

 世界中の誰よりも、宇宙に存在するすべてのものよりも、君がぼくにとって相応しい‥‥‥。
 
 言葉には出来なかったけど、ぼくは心の中でそう付け加えていた。