月のあかり

 
『満央―!満央―!!』
 
 彼女の名を必死で呼ぶ自分自身の叫びで、ぼくはためいき色の白昼夢から覚めた。
 
 目の前には俯いたままの満央が座っていた。
 
 今度は現実の言葉で優しく彼女に声を掛けると、「にゃあ」といつもの猫の鳴き真似をして顔を上げた。
 少しだけ繕ったような笑顔だった。
 
「いつでも満央のことを想ってるよ」
 
 何の脈絡もなく、素直に彼女のことを想う気持ちを表した。
 それなのにぼくの声は、センチメンタルな韓流映画の主人公のように、芝居じみた言い方になってしまった。
 
「知ってる」と満央が答えた。
 それから思い詰めるような表情を見せて、ぼくに尋ねてきた。
 
「ねえ、直樹さん」
 
「なに?」
 
「最近あの夢を見る?」
 
「ああ‥‥いや‥‥あまり見ないね」
 
 曖昧な返事をした。
 
 《あの夢》だけで何の事かすぐに理解した。
 けれどたった今、《ためいき色》に埋没した白昼夢に犯されていたなんて、この場で即答することなど出来るはずもなかった。
 
「私はよく見るの」
 
「どんな?」と聞いておきながら、次の瞬間には後悔した。