月のあかり

 
「ねえ、どうして? どうして勝手に決め付けるの?」
 
「勝手に?」
 
「そうよっ、私が‥‥私が決めちゃいけないの?」
 
 少し舌っ足らずで柔らかい物腰のはず満央が、初めてぼくに見せた芯の強い態度。
 
「誰を好きになるかなんて、私の自由じゃないの?」
 
 続けざまに放った彼女の言葉は、さっき高梨が言った一般的な正論と同意語であり、若者らしくても、普段の彼女らしくない剛直なものだった。
 
「そうだね。それは満央の自由だよ」
 
 そう、例え心変わりをして彼女が高梨を好きになったとしても、それは彼女の自由な選択だろう。
 
「じゃあ、私が自分で自分に相応しい人を選んでもいいんだよね?」
 
 満央が涙目で言った。
 
 ぼくは的確な言葉が見つからず、黙って頷いた。
 
 
「私に相応しいのは‥‥‥」
 
 そう言い掛けた満央の言葉を遮断するように、鳴り止んでいたはずの雷鳴が、ためいき色の空間に響き渡った。
 その途端、ためいき色の霧は見渡す限りの黒雲に変貌し、満央の身体や口元へと絡み付くように覆い被さってゆく。
 
 そして、悲鳴を発した満央は黒雲の彼方へと吸い込まれ、暗闇の中に跡形もなく溶けていった。