「でも彼、ああ見えても根はいい人なんですよ」
長澤さんが、ひいき目な思いを噛み締めるように言った。
ぼくは疑問に感じ訊き返した。
「高梨くんとは古い知り合いなの?」
「実は高校生の頃に、裕也と付き合ってたんです。卒業と同時に別れてしまったんですけどね」
「じゃあ、どうしていまここに?」
「そう、偶然なんですけど、バイト先で仲良くなった舞に誘われてこの劇団に入ったら、裕也が創設メンバーとしてここにいたんですよ」
まさかこんな所で再会するなんて思わなかった。
彼女はそう言葉を連ねて苦笑いをした。
「すぐその後に、裕也は舞と付き合い出したし、私も恋愛感情とかはありませんでしたけどね」
「ただ、そうやって再会したのは、やっぱり何らかの縁があったんだろうね」
「ええ、腐れ縁ですよね。後からそれを知って、舞も驚いてました」
高梨と同じ言葉を発し、長澤さんは再び苦笑いをして見せた。
ぼくはその苦笑いの中に、彼女の様々な思いが混在している気がした。
高梨への思い。
舞への思い。
彼女自身の秘めた思い。
ぼくの空耳だろうけど、隣の部屋から聞こえていた嘲笑が、おおっという歓声に変わっていた。
「にゃあ」

