これが肯定されては元も子もないのだが、ぼくは自分のことを先に引き合いに、おどけた言い方をして見せた。
案の定、長澤さんは、ふふっと笑って否定してくれた。
「嶋さんのことじゃないですよ。舞は裕也の強引さに負けて、付き合っていたみたいだったわ」
長澤さんの言葉に、ぼくは目を伏せるように視線を下げた。
ぼくは舞には会ったことがないし、すでにこの世に存在しない彼女とは、今後も会える可能性はない。
彼女を想像する時は、満央の顔を思い浮べる。
そうすると、どうしても満央と舞が、限りなく同一人物のイメージとして重なってしまうのだ。
「それで舞は幸せだったのかな?」
「さあ‥‥それは分からないわ」
男性への免疫不足。
でもそれは、ある意味で女性そのものの本来の姿。
対極にある《男性》という、異質なものを引き寄せ、結び付くためのあるべき本能。
自然の摂理。
太古の時代より引き継がれる法則。
そこにある性の対照性。
男性としての荒々しさ。
強引さ。牽引力。
根拠のない自信。
漠然とした自信。
でも揺るぎない自信。
強さと優しさ。
父性本能。
そして、大人の男としての包容力。
すべてがぼくに備わっているようで、すべてがぼくに欠落しているようにも感じられた。
自然界の中では、ぼくは弱者の眷属に分類されてしまうのだろうか。
隣の部屋から聞こえる劇団員たちの稽古の声が、無数の観客の嘲笑に聞こえた。

