そうしてぼくらは、そのまましばらく押し黙っていた。
すると再びドンッと音がして、防音扉が開いた。
「裕也、みんなが呼んでるわよ。早く戻ってやって」
向こうの稽古部屋から戻って来たのか、長澤さんは扉を開けるなり高梨を下の名前で呼び、強い口調で言った。
「分かったよ」
高梨は飲みかけのミネラルウォーターを置き去りにして、席を立った。
「嶋さん。これからも何かとよろしく」
彼はそう言って初対面のあの時と同じように、横柄な握手を求めてきた。
「ああ」
再現されたような二度目の状況で、ぼくは冷静に対処した。
ただし握る手に必要以上の力は込めなかった。
そうすることで、あくまでも友好的な感情は拒絶する、という意思表示をした。
高梨は分かったように頷いた。
彼が扉の向こうに去った後、再度入れ替わって、ぼくの隣の椅子に長澤さんが座った。
「満央ちゃん呼んで来たから、もうすぐ来ますよ」
「稽古中に大丈夫なんですか?」
「ええ、彼女復帰したばかりで、まだ配役とかないんですよ。発声練習やストレッチをしているだけ。強いて言えば、裕也の付き人みたいに使われている状態かな」
付き人か‥‥高梨の一声で、献身的に擦り寄る満央の姿を想像すると、胸苦しさが込み上げる。

