でもそれでいいのだろうか?
いいわけがない。
そんな話を聞きに、わざわざここに来たわけじゃない。ぼくは満央に会いに来たのだ。
ぼくと満央の絆が揺るがなければ、高梨がどう思おうが、何を考えようが関係ないはずだ。
そう自分に言い聞かせて高梨の目をじっと見据えた。
「ぼくは確信しているんです」
徐に高梨が言った。
「何を?」
「彼女は以前から、ぼくの気持ちを察していたはずです。彼女がこの劇団に戻って来たのは、彼女自身の夢の為でもあるでしょうが、ぼくの気持ちを前向きに受け止めてくれた証しだと、確信しているんです」
そう言い放った後、高梨は笑みを見せた。
それは勝ち誇ったようでもあり、単に照れ笑いでもあるような曖昧な笑顔だった。
ぼくは彼の話を信じるつもりはなかったし、信じたくはなかった。
満央の気持ちは満央自身にしか分からない。
もう外の雷鳴は止んでいた。
雨音も聞こえなかった。
天界からの怒号と号泣の共演は、いつの間にか終演していたらしい。
ただ奥の部屋からは防音扉を通して、劇団員たちの台詞を発する声が微かに聞こえた。
その中に満央の声も混じっているのだろうか。
ぼくにはその声を判別することも、聞き取ることも出来なかった。
満央は何と言っているのだろうか。
そしていまのぼくに、何と言ってくれるのだろうか?

