言い出しは躊躇い気味に、それでいて語尾を強めるように高梨は言った。
ところが、ぼくの心の中に思ったほどの動揺は生じなかった。
むしろ《やっぱりな》という的中感で、口元が仄かに緩んだ。
同じ男として、彼のこれまでの挙動を鑑みれば、そんなことは初めから分かっていたことだ。
高梨は言葉を続けた。
「最初は舞と似ているから‥‥という感覚でした。彼女を失った寂しさから生まれた感情だったのかも知れません」
ぼくは「分かるよ」と答えた。
客観的な考え方としては、それもまた男として理解出来ない訳ではなかった。
「でもいまは、本気で満央ちゃんのことを考えています」
「そうか‥‥それは分かってあげれないな」
「ええ、でも人を好きになるのは自由でしょう?」
彼の一般的な正論に、ぼくは下唇の左側を小さく浅く噛み締めた。
「ああ、確かに。別に高梨くんの自由を拘束しようなんて思わないし、そんな権限もない」
そう言うと、高梨も力んで言った。
「ぼくだって嶋さんに了解を得ようなんて思っている訳じゃない。ぼくは自分に正直に、それと彼女に対する気持ちを、正直に持ちたいだけなんです」
少々自己中心的だが、若者らしい真っすぐな意見だった。
ぼくは彼に嫉妬した。
その攻撃的な剛直さが羨ましいとさえ思った。

