月のあかり

 
「満央ちゃん呼んで来ましょうか?」
 
 高梨が言った。ぼくは一瞬思案した。
 ここで「はい」と即答したら、あたかもぼくのほうから、一方的な我儘を要求しているみたいに思われやしないか。
 それとも、そんな子供地味た応答を引き出そうとする、意地悪な誘導尋問なのだろうか。
 
「いや、いいよ。まだ稽古中なら悪いから」
 
 ぼくはやんわりと否定の選択肢を取った。
 
「お仕事忙しいんですか?」
 
「ええ、まあ」
 
「満央ちゃん、このところだいぶ退屈してたみたいでしたよ」
 
 痛いところを衝かれた。
 忙しさにかまけて、彼女をかまってあげれなかったことは、間違えなくぼくの過失だった。
 それがお互いのすれ違いを生み出していたことも明白な事実だろう。
 
「そのことが、劇団に復帰した理由なんだ?」
 
 ぼくの言葉に対し、高梨は答えた。
 
「それは違います」
 
「じゃあ、君が強引に連れ戻したのかい?」
 
 ぼくが吐き捨てるように言うと、今度は彼のほうも、露骨に不機嫌な表情を見せた。
 
「それも違います」
 
「じゃあ、どうして?」