そう答えると、長澤さんはつい余計なことを話してしまったと言って「すみません」と小声で呟いた。
「大好きだった姉の死について、あまり深くは語りたくなかったんだと思うよ」
ぼくは長澤さんを宥めるように言った。
ただそれは、ぼくにとっても何となく気になっていたことだったし、以前、満央に直接聞いた時には、はっきり答えてもらえなかった。
それだけに、あの写真を撮ったという当事者と、まさにその場所で「舞」の死についての情報をこうも容易く知り得たことに、奇妙な因縁を感じずにはいられなかった。
その後、冗舌だった長澤さんの言葉が止まり、ぼくも口を噤んだ。
すると、外の雷鳴までしばらく鳴り止んでいた静寂のフロア内に、突然ドンッと壁を叩くような音がした。
振り向くと、防音の重たい扉が開いていた。
「あ、来てたんですか?」
甲高い声をあげ、扉の向こうから出て来たのは、満央ではなく高梨だった。
ぼくは軽く首だけ下げるような粗雑な会釈をした。
ところが高梨は、そんなぼくに対して深々と丁寧に頭を下げて応えた。
全くの別人のように、いつもの印象とはまるで違う彼の姿がそこにあった。
「お疲れさま。何か飲み物でも持って来ますね」
長澤さんは気を利かせるようにそう言って、すっくと席を立った。
入れ替わるようにぼくと向かい合い、その椅子に高梨が腰を下ろした。
これから一体どんな会話が始まるのだろうか。
ぼくは不意に襲来したこの状況に、ゴクリと唾を飲み込み、全身に力を入れて身構えていた。

