駐車場に立ち尽くす三人の空間に、音をたてない《沈黙》という快特列車が数秒間だけ通過した。
「俺、店に戻ってるよ」
「じゃあ」と高く手を上げ、高梨は2、3歩後退りしてから店の方へと戻って行く。
彼はこの間を嫌って退却したのだろうか。
それとも勝利を確信した勝鬨の挙手を示し、自軍の陣地に意気揚々と凱旋している気分なのだろうか。
その真意は定かでないが、自動ドアを開け、店内に消えて行く高梨の後ろ姿を見送ると、ぼくの方から満央に声を掛けた。
「ごめんね」
満央は、どうして謝るの? という表情で目をパチパチさせ、小さく首を振った。
いつもの彼女の仕草。
困った時に見せる眉を下げた表情。
切なげな満央の眼差し。
「今度の日曜日にも、お芝居の稽古があるの。よかったら直樹さんに見に来て欲しいの」
もう一度スーツの袖を摘んで満央がそう言った。
きっと現実の状況をぼくに直接披露することが、
高梨との関係に生じた誤解を解く最善の方法。
心のわだかまりを治癒する唯一の妙薬。
そんな彼女の気持ちを察すると、ぼくは無条件で「うん」と頷いた。

