「これって、どんなお話なの?」
聞いたこともない題名に対して、率直な疑問を投げ掛けると、満央は「知らないのぉ?」と得意気な声で言い、今度は彼女のほうがぼくの顔を覗き込んだ。
「読んでみてよ」
手に持たされた台本を開いてみると、どのページも台詞と場面の描写の文字で、びっしりと埋まっていた。
とてもちょっと読んだだけじゃ、話の内容が分かるはずもない。
ぼくはパラパラと大雑把にページをめくり、分かったように頷いてみせた。
「ちゃんと読んでないでしょ」
満央は見透かしたように、目を細めて言った。
「急には全部読めないよ」
最もらしい言い方をすると、満央は「しょうがないなあ」とまた得意気に、それでいて説明することが、ちょっと誇らしげで、嬉しそうに話し出した。
「あのね、ヨーロッパの神話がもとになってるんだよ」
「神話?」
「そう、月の女神のお話なの」
「え? 月の女神って確か‥‥‥」
普段あまり考えたことのない雑学的な知識だと、咄嗟に名前が出て来ないものだ。
「ア‥‥ ア‥‥」

