「あった、あった」
満央は、ぼくの問い掛けにはまったく反応せずに、何かをさがすようにまさぐっていた本棚から、一冊の小冊子を携えて、ぼくの隣にちょこんと座った。
『セレーネーとエンディミオーン』
膝の上に差し出された、何かの台本と思しき小冊子には、題名らしき太い文字でそう書いてあった。
「これは?」
何の事か分からず、満央の顔を覗き込むように尋ねた。
「劇の台本だよ」
「劇?」
「うん、お姉ちゃん、劇団に入っていたの」
そういえば、初めてキャバクラで出会った時の会話で、満央も劇団に入っていたと言っていたのを思い出した。
「満央も劇団に入っていたんじゃないの?」
「うん、私はバイトとか忙しくて、すぐに辞めちゃったんだけどね」
満央は恥ずかしそうに舌を出して、そう答えた。

