月のあかり

 
「いいよ、入って来て」
 
 部屋の入り口で茫然と立ち竦むぼくに、満央は入室の許可を与えた。
 ぼくは満央の部屋にいた時と同じように、水色のベッドの端に遠慮がちに腰を掛けると、ギギギッと小さく軋む音がした。
 
「満央のお姉ちゃんって、あんまり部屋を飾ったりしなかったの?」
 
 殺風景な部屋の理由を、極力差し障りのないような遠回しな言い方で聞いた。
 満央はぼくの質問に対して、一瞬何かを考えるように間を置いてから、「ううん」と否定の返事をした。
 
「少しだけ私が片付けたの」
 
「そうなんだ‥‥‥」
 
 ベッドと机と本棚、そしてタペストリー。
 それ以外何も無い部屋で、少しだけ何を片付けたというのだろう。
 けれど深く追求する事でもないと思い、敢えてそれ以上は何も聞かなかった。
 それにこの部屋の雰囲気が、まるであの《ためいき色》みたいに感じるだなんて、到底口には出せなかった。
 むしろ、ぼくらが以前から話していた話題として、満央自身がその事に気付いていないのだろうかと疑問に思う。
 
 この部屋が《ためいき色》に染まっているということを。
 
 そんなことを考えながら、もう一度部屋の中を見回すと、タペストリーの中の月が異様に大きく、そしてリアルの浮かび上がって見えた。
 
「ねえ、満央のお姉ちゃんって、月が好きだったの?」
 
 ぼくは、タペストリーを指差しながら満央に訊いた。