お姉ちゃんの部屋?
2年前に亡くなったという満央の姉の部屋を、いまもそのままの状態で残しているのだろうか。
ぼくは妙な胸騒ぎと違和感を感じ、座っていたベッドから腰を上げて、満央の後を追うようにドアへと近付いた。
そして《ツルの恩返し》のお爺さんとお婆さんが、こっそり障子戸を開けたように、恐る恐る隣りの部屋を覗いた。
「あ、ダメだよ入ってきちゃ」
勘のいい満央は後ろを振り向いて、すぐにぼくの存在を察知した。
「ごめん、入っちゃいけなかった?」
ぼくは惚けた振りをして言った。
しかし満央はそれ以上ぼくを咎めることはせずに、黙ったまま部屋の奥にある本棚に向かい、何かをさがしているようだった。
ぼくは満央の後ろ姿を見つめながら、部屋の中の景色の異様さに、一瞬のタイムラグを置いてから気が付いた。
『この部屋は‥‥‥』
カーテンも、ベッドのシーツも、クッションも、そして壁紙に至るまで、部屋一面の何もかもが水色で統一されている。
水色‥‥いや、まさにあの《ためいき色》なのだ。
そればかりではない。
ベッドの枕元の壁には、満月の写真がアップで映し出された、大きなタペストリーが掛けてあった。
ぬいぐるみなどの、女の子を感じさせる飾り物は一切ない。
閑散とした《ためいき色》の部屋。
何故か、ぼくは悪寒に似た強烈な寒気を感じ、背筋が凍った。

