猫のような忍び足で唐突に姿を現し、不意に会話に割って入って来たことに、ぼくも満央の母親もびっくりして背筋がピクっとした。
あははっ‥‥‥。
満央の母親は意味深な微笑みを浮かべて、ばつが悪そうに首をすくめ、「ごゆっくり」と言って、逃げるように奥の部屋へと行ってしまった。
「変な親でしょ?」
気まずそうに満央が言った。
「いや、そんなことないよ。面白いお母さんだね」
「お節介だからイヤになっちゃうの」
「心配なんだよ、娘のことが」
「そうかなあ」
ぼくは男だし、母親と娘の意識関係がどんなものかよく分からないけど、世間で言う《友達みたいな母と娘》なんて平和的で親密な関係を勝手に想像してしまう。
現にこうやって、付き合っている男性を家に連れて来たり、堂々と紹介出来るのは、親子の信頼関係が親密な証拠だろう。
ただ何となく気になったのは、今の自分の立場を棚に上げてしまうが、こうして易々と父親不在の家庭に他の男性を招き入れてしまう行為は、少々不用心ではないかと危惧してしまう。
男性への免疫か‥‥。
そう心の中で呟きながら満央を見つめる自分に気付くと、『これって、父親的な心配?』と自問自答し、思わず苦笑いを浮かべてしまった。

