月のあかり

 
「いえ、ちょっぴり安心してるんですよ」
 
「安心‥‥ですか?」
 
 ピンと来ない言葉にぼくが聞き返すと、満央の母親はこう言った。
 
「あの子、子供っぽいところがあるから、もし男性と付き合うなら、父親代わりにあの子のことを見てくれるような男性がいいと、私は思ってたんですよ」
 
「ち、父親代わり‥‥ですか?」
 
 それはぼくにとって過度な期待感であり、拍子抜けするような表現だった。
 
 満央の母親はクスクスと笑った後、父親は仕事で海外赴任しており、日本には年に一、二度しか帰って来ないのだと話してくれた。
 
「うちには男の兄弟もいないし、男性への免疫が乏しいのではないかと心配してたんです」
 
「免疫‥‥ですか?」
 
「ええ、それに姉の舞が亡くなって、あの子は独りっ子のようになってしまったので、将来は婿養子になってくれる人でも見付けてきなさいって、いつも言い聞かせてるんです」
 
 本気なのか、冗談なのか分からないが、満央の家に招かれて10分も経たないうちにそんな話を聞かされ、ぼくはただ無言で頷きながら聞き入っていた。
 確かに一人娘となってしまった満央がお嫁に行ってしまったら、家系が途絶えてしまうというのは事実だろう。
 
「もぉ、ママったら、初対面の人にいきなりなに話してるのよ」
 
 着替え終わった満央が、いつの間にかぼくの後ろに立っていた。