ソファに座らされると、苦めの緑茶を差し出された。
これでぼくがアタッシュケースでも開け、うさん臭い商品を取り出して「奥さん、安くしときますよ」なんてセリフを振りまいたら、まさに怪しい訪問販売の悪徳セールスマンみたいだ。
屈折した妄想が瞬時に頭を過ると、場をわきまえずに、奇妙な含み笑いを浮かべてしまいそうになる。
満央は着替えて来ると言って、自分の部屋と思しきドアの向こうに入ってしまった。
「いつも満央がお世話になっているみたいで」
満央の母親はいまがチャンスと感じたのだろうか。
どこか警戒心を潜ませつつも、満央の母親は興味津々とばかりに、ぼくにあれこれと話し掛けてきた。
「嶋さん‥‥ってお名前なんですよね」
「ええ、よくご存じで」
「多少は満央から聞いているんですよ」
悪戯っぽく微笑みながら言う仕草は、満央が時々見せるそれと同一であり、母親がその先代継承者であることが窺えた。
「そうなんですか」
「でも、歳がそんなに離れているとは思わなかったですけど」
「す、すみません」
恐縮したぼくの口からは、何故か申し訳なさの表現が漏れてしまった。
そんなぼくの反応を見て、満央の母親は「謝らないで下さい」と言い、また悪戯っぽく笑った。

