そう、あのホテルでのエレベーターで鳴った満央の携帯電話。
そのサブウィンドウに表示されていた名前も高梨だった。
確か‥‥ 高梨 裕也。
パッと見は高校生のような若作りな格好をしているが、実際は25、26歳ぐらいの年齢ではないかと思う。
彼がその高梨なのだろうか?
「満央ちゃん、ちょっと待ってて」
彼はそう言うと景品カウンターへと向かった。
恐らく出したスロットコインを換金しに行ったのだろう。
ぼくらは店の入り口まで戻って彼を待つことにした。
満央はぼくの存在を彼に何と説明したのだろう。
まだその疑問が胸に支える。
そして拘りという棍棒を持った鬼となって、執拗にぼくの頭部を殴打してくる。
さらにそこへ『高梨』という名の疑惑が、大蛇のようにぼくの身体に絡み付くものだから、この些細な待ち時間が胸苦しくてたまらなかった。
満央はそんな苦悶の表情を浮かべるぼくの顔を、なんとも不思議そうに覗き込む。
「大丈夫? 具合悪いの?」
「あぁ、大丈夫だよ」
ちっとも大丈夫そうでないぼくを見て、満央は背中を摩ってくれた。
「ねえ、あ‥‥満央」
一瞬『あかり』と呼びそうになったのを慌てて修正した。
ぼくの中で今だに『あかり』という呼び名のイメージが強く残存しているせいもあったが、落ち着かないこの状況下での混乱が、勝手に間違いを誘発させた。
満央は何も気付いていないように、ごく普通に「なに?」と答えた。

