「……始まる」

少女の小さな呟きに、答えが返る。

「前回から20年。また随分と早い開催だね」

「前回は完全に決着がつかなかったのだから当然だろう」

返ってきた答えに冷たく答えた少女はゆっくりと立ち上がり、隣に立っている人物へと向き合った。

「わたしは行く。今回こそ決着をつける……。絶対に」

そう言って背を向けた少女に隣にいる人物―――青髪の青年は静かに瞼を閉じて口を開く。

「君は強い。今回の戦争にかける思いも、きっと……」

「わたしはわたしのやるべきことをやるだけだ」

「……君からは感情が読み取れないね」

呆れた表情で青年は少女を見るが、無表情のそこからは何も見えない。
少女は再び青年の方を向き、青年の目を見つめる。
深海のような、深い青色。
自分とは正反対の彼は一体何を見ているのか。

「まあ、せいぜい優秀なマスターに呼び出されればいいね」

「人間のマスターに優秀もなにもない」

「相変わらず厳しいな」

「わたしは目的さえ達成できればそれでいい」

「………できることなら、僕が君のマスターになりたかったな」

青年の最後の呟きに少女は答えず、小さな手を伸ばして彼の肩に置く。

「……わたしは先に行っているぞ。貴様と敵対することがないことを願っている」

そう言って手を離し、一度も振り返らず去っていく少女を見ることもなく、青年は静かに微笑んだ。

「………君のマスターになる者はさぞや幸せだろうね。ファリヌ」