遥と由香里はまだお酒が飲める年齢ではなかったし、一年生がメインの新歓コンパだったので、ジュースやお茶での宴会になった
店内は少し暗く、地下というコトもあり窓はないが落ち着いた空間になっていた
店内の一番奥にある四角いテーブルに遥と由香里は腰かけた
テニスサークルは2年生と3年生合わせて総勢30名ほどの、差ほど大きなサークルではなかった
サークル名はピロティー
本来、ピロティーは学校などの各階にある広場のコトだ
部員が気軽に集まれる様な広場・雰囲気にしたいと、この名前になった
カッコいい名前ではなかったが、懐かしい響きだ
人数も少なく、その考えに賛同した者が集まって活動しているからから、部員からはアットホームで和気あいあいな雰囲気が会話しなくても伝わってきた
そんなテニスサークルに興味を持ってか、単にタダ飯が食べたいからか分からないが、15名ほどの新入生が新歓コンパに参加していた
既に新歓コンパでは自己紹介も終わり、会は後半戦に入っていた
自分達から話しかけに行く勇気が出ない遥と由香里は二人だけで話していた
『なんだかみんな場馴れしてる感じだね。もう先輩と仲良く話してる人たちがいるよ』と、遅れをとって不安になっている遥
『そーだね。私たちも自分から話しかけに行った方がいいかな!?』とやる気な由香里
そんな二人の視線の先には男子新入生2人とイケメンで部長の先輩が楽しそうにしゃべっていた
茶髪で、いかにもムードメーカーの様なしゃべりをしている少しうるさいくらいの男と、さっきから微笑んで話を聞いているだけの黒髪でメガネの静かそうな男
どちらも遥たちと同じ新入生だ
イケメン部長はテレビに出ていてもおかしくない様な見た目の良さだったが、どことなく不思議な雰囲気の持ち主だった
かといって、話しにくいようなオーラではなく、逆に包み込まれて何でも相談出来そうなタイプだ
イケメンで長身
更に優しくて部長
まさに完璧
名前も桜川 透(さくらがわ とおる )
爽やかな名前と顔が合っていた
遥がぼーっとその光景を見ていると、後ろから急に声をかけられた
『水沢さん、ちゃんと食べて飲んでる?何か飲み物持ってこようか?』
話し掛けていたのは副部長の内海 拓真(うつみ たくま)
切れ長の目がクールで歳より大人に見える
桜川と同じくらいイケメンだが、タイプが違うかっこよさの持ち主だ
先程、全員で自己紹介しただけなのに既に名前を覚えられていたコトに驚いた
驚きと、見とれてしまって返事がワンテンポ遅れ、変な間が出来てしまったコトに気付き慌てて遥は答えた
『……。あっ!大丈夫です!!オレンジジュース飲んでるんで!』
『そう?なら良かった。小さな洋食屋さんだけど今日のために貸し切ったんだから楽しんでってよ』
少し不思議そうな顔をされたが、見とれていたコトには気づかれなかった様子で、そっと胸を撫で下ろした
内海は先程から楽しそうに話してる桜川に声をかけた
『おい、サク。男とばっかしゃべるなよ。俺、会計してくるから、あとよろしくな』
そう言うと遥たちにも軽く挨拶し、店の奥へ去っていった
内海の『あと、よろしくな』の意味を察し、桜川が新入生も連れて遥たちが座っていたテーブルに近づいてきた
四人掛けの四角いテーブルに横並びになるように座っていた遥と由香里
その二人の正面に新入生2人が座った
桜川は隣のテーブルに座り、少し椅子を近づけてしゃべる体勢を整えた
『どう?お腹一杯になった?もうそろそろお開きにしちゃうからさ。悔い残らないよーに食べちゃってよ!』
『大丈夫です。いっぱい食べちゃいました!』と勢いよく答えたのは由香里だ
『えっと…。お二人の名前はなんて言うんだっけ?』
『私は森永です。』
『下の名前は?』
『由香里です。』
『森永 由香里さんね。えーっとそんで……。』
『わ、私は水沢 遥です。』
『水沢さんと森永さんね!!よし!二人の名前は覚えられそうだ。こっちの二人は佐伯と朝倉ね。てか、俺にやらせないで自分達で言えよ』と桜川は、新入生2人を軽く殴る真似をして見せる
もう悪ふざけが出来るくらいの親しい関係になってるのが見てわかる
初めにしゃべりだしたのは茶髪のムードメーカーの方だ
『俺は佐伯 隼斗(さえき はやと)。システムデザイン学部だから二人とはキャンパス違うけどよろしく!』
『俺は倉田 柊(くらた しゅう)。こいつと同じシステムデザイン学部。』
あまり自己紹介しなかった倉田を見て佐伯がしゃべりだした。
『俺ら、高校から一緒なんだよ!
こいつ超人見知りで今めっちゃ緊張してるからこんなんだけど、しゃべったら超楽しいやつだから!初めての人としゃべるの苦手なのに、女の子だから尚更なんだよな!』と、少しイタズラっぽい笑いで倉田をいじった
『ハードル上げるなよ…。てか、そーいう余計なコト言うなよ。何か誤解されるだろーが。』
倉田は遥たちの方を向いて話を続けた
『俺ら、男子校だったからさ。だけど、女子が苦手とかじゃないから。かといって、めちゃくちゃ女の子たちと話したくてたまんねー!とかでもないから。あー。何言ってんだろ。』と恥ずかしそうに頭をかいてた
その仕草がなんだか遥にはツボだった
こらえきれずに声を出して笑ってしまった
『ぷっ!あはは…。あ!ごめん笑っちゃった…。』
『ちょっと、初対面で笑われるとかヘコむわぁ…。こりゃー今晩寝れないな。枕濡らすわ』と大袈裟に落ち込むリアクションをとる倉田
『ごめんごめん。そーいう意味じゃなくて、私と同じだなと思って。何か親近感がわいてさ』
『親近感?』
『そーなの。私は共学だったんだけど、そんな自分から男の子に話しかけるタイプじゃなかったから』
『じゃあ水沢さんは俺と仲間だわ。よろしく!』と優しく微笑みながら、倉田は笑われた意味が理解出来てほっとした様子だ
『よろしく。って言ってもまだこのサークルに入るか決めてなくて…。ね?由香里。』
『んー。今日は雰囲気を知れればいいなと思って来たんだよね。でも、みんな良い人たちだし入ってもいい感じだよね?』
既に由香里は入部する勢いだ
と、そこへ話を静かに聞いていた桜川が話し出す
『今日はあくまでも見学会と新歓コンパだから。入らなきゃいけないって気持ちにならなくてもいいよ。きっとここにいる新入生全員は入らないだろうし。まだ、時間はたっぷりあるから焦らず決めればいいよ。まぁ、早々決めちゃった奴らの前で言うのもアレなんだけどさ。』
桜川は横に座ってた二人を見る
その視線を感じ、佐伯は高らかに手をあげ椅子からも立ち上がり叫んだ
『そーなんだよ!俺らはこのサークル入ったから!テニスとかあんましたことないけど、ここのサークル楽しそうじゃん!?他にもテニサーはいっぱいあるけど、俺らはここに決めたんだよ!直感だね!何かありそうって予感がするんだよ!2人も入ろーぜ!!』
店内に響き渡った佐伯の声に驚き、その場の全員が会話を止めてしまい一斉に静かになった
その静寂の雰囲気と、バツの悪そうな佐伯を見て、なんだかおかしな雰囲気になり、どこからか笑い声が聞こえ、やがては店内の全員が笑った
そこへ部長の締めの言葉が入った
『こいつがビシッと入部宣言をした所で、そろそろ新歓コンパも時間が来たのでお開きにしようと思います。今日で我がピロティーの雰囲気が少しは分かっていただけてれば嬉しいです。入る人、入らない人いるとは思いますが出来るだけ楽しくワイワイやっていきたいんで!もちろん未経験者大歓迎。入部するともれなくこの騒がしい佐伯とも友達になれるから(笑)。皆さんと楽しい時間が過ごせるのを部員一同楽しみにしております!』
それを合図にして会が終わり、ぞくぞくと店の外に新入生が出ていく
『じゃー、俺らも帰りましょうかね!』と立ち上がる佐伯
遥も春物のコートとバッグを手に持ち、立ち上がろうとした時テーブルの足につまずいた
そのまま隣のテーブルに体ごとぶつかりそうな体勢になった
“わーっ!ぶつかる!!”
そう思ったが、荷物で両手がふさがっていた遥はただ目をつぶるコトしか出来なかった
『ハル危ない!!』
叫び声が聞こえ、遥は気がついたら誰かの腕の中にいた
目を開けると目の前には倉田の顔があった
抱え込んで助けてくれたのは正面に座っていた倉田だった
心配そうに遥の顔を覗き込む倉田の顔がとても近かった
そして、メガネの奥の瞳がキレイだった
吸い込まれそうになるくらい、とてもキレイな瞳
『いやー。良かった…。俺、心臓弱いんだからビックリさせないでよ…。』と冗談を言いながら、抱きしめていた遥の体をゆっくりと離した
『ケガしてない?』
『あ…。ごめん…。大丈夫。ありがとう。』
遥の心臓はドキドキしていた
倒れると思ったからなのか、男の子の顔をあんな近くで見たからなのか、それとも…。
遥自身にも、ドキドキの理由が分からなかった
ただ、あの澄んだ瞳がとてもキレイだったコトだけが、遥の心に残って記憶から消えなかった
店内は少し暗く、地下というコトもあり窓はないが落ち着いた空間になっていた
店内の一番奥にある四角いテーブルに遥と由香里は腰かけた
テニスサークルは2年生と3年生合わせて総勢30名ほどの、差ほど大きなサークルではなかった
サークル名はピロティー
本来、ピロティーは学校などの各階にある広場のコトだ
部員が気軽に集まれる様な広場・雰囲気にしたいと、この名前になった
カッコいい名前ではなかったが、懐かしい響きだ
人数も少なく、その考えに賛同した者が集まって活動しているからから、部員からはアットホームで和気あいあいな雰囲気が会話しなくても伝わってきた
そんなテニスサークルに興味を持ってか、単にタダ飯が食べたいからか分からないが、15名ほどの新入生が新歓コンパに参加していた
既に新歓コンパでは自己紹介も終わり、会は後半戦に入っていた
自分達から話しかけに行く勇気が出ない遥と由香里は二人だけで話していた
『なんだかみんな場馴れしてる感じだね。もう先輩と仲良く話してる人たちがいるよ』と、遅れをとって不安になっている遥
『そーだね。私たちも自分から話しかけに行った方がいいかな!?』とやる気な由香里
そんな二人の視線の先には男子新入生2人とイケメンで部長の先輩が楽しそうにしゃべっていた
茶髪で、いかにもムードメーカーの様なしゃべりをしている少しうるさいくらいの男と、さっきから微笑んで話を聞いているだけの黒髪でメガネの静かそうな男
どちらも遥たちと同じ新入生だ
イケメン部長はテレビに出ていてもおかしくない様な見た目の良さだったが、どことなく不思議な雰囲気の持ち主だった
かといって、話しにくいようなオーラではなく、逆に包み込まれて何でも相談出来そうなタイプだ
イケメンで長身
更に優しくて部長
まさに完璧
名前も桜川 透(さくらがわ とおる )
爽やかな名前と顔が合っていた
遥がぼーっとその光景を見ていると、後ろから急に声をかけられた
『水沢さん、ちゃんと食べて飲んでる?何か飲み物持ってこようか?』
話し掛けていたのは副部長の内海 拓真(うつみ たくま)
切れ長の目がクールで歳より大人に見える
桜川と同じくらいイケメンだが、タイプが違うかっこよさの持ち主だ
先程、全員で自己紹介しただけなのに既に名前を覚えられていたコトに驚いた
驚きと、見とれてしまって返事がワンテンポ遅れ、変な間が出来てしまったコトに気付き慌てて遥は答えた
『……。あっ!大丈夫です!!オレンジジュース飲んでるんで!』
『そう?なら良かった。小さな洋食屋さんだけど今日のために貸し切ったんだから楽しんでってよ』
少し不思議そうな顔をされたが、見とれていたコトには気づかれなかった様子で、そっと胸を撫で下ろした
内海は先程から楽しそうに話してる桜川に声をかけた
『おい、サク。男とばっかしゃべるなよ。俺、会計してくるから、あとよろしくな』
そう言うと遥たちにも軽く挨拶し、店の奥へ去っていった
内海の『あと、よろしくな』の意味を察し、桜川が新入生も連れて遥たちが座っていたテーブルに近づいてきた
四人掛けの四角いテーブルに横並びになるように座っていた遥と由香里
その二人の正面に新入生2人が座った
桜川は隣のテーブルに座り、少し椅子を近づけてしゃべる体勢を整えた
『どう?お腹一杯になった?もうそろそろお開きにしちゃうからさ。悔い残らないよーに食べちゃってよ!』
『大丈夫です。いっぱい食べちゃいました!』と勢いよく答えたのは由香里だ
『えっと…。お二人の名前はなんて言うんだっけ?』
『私は森永です。』
『下の名前は?』
『由香里です。』
『森永 由香里さんね。えーっとそんで……。』
『わ、私は水沢 遥です。』
『水沢さんと森永さんね!!よし!二人の名前は覚えられそうだ。こっちの二人は佐伯と朝倉ね。てか、俺にやらせないで自分達で言えよ』と桜川は、新入生2人を軽く殴る真似をして見せる
もう悪ふざけが出来るくらいの親しい関係になってるのが見てわかる
初めにしゃべりだしたのは茶髪のムードメーカーの方だ
『俺は佐伯 隼斗(さえき はやと)。システムデザイン学部だから二人とはキャンパス違うけどよろしく!』
『俺は倉田 柊(くらた しゅう)。こいつと同じシステムデザイン学部。』
あまり自己紹介しなかった倉田を見て佐伯がしゃべりだした。
『俺ら、高校から一緒なんだよ!
こいつ超人見知りで今めっちゃ緊張してるからこんなんだけど、しゃべったら超楽しいやつだから!初めての人としゃべるの苦手なのに、女の子だから尚更なんだよな!』と、少しイタズラっぽい笑いで倉田をいじった
『ハードル上げるなよ…。てか、そーいう余計なコト言うなよ。何か誤解されるだろーが。』
倉田は遥たちの方を向いて話を続けた
『俺ら、男子校だったからさ。だけど、女子が苦手とかじゃないから。かといって、めちゃくちゃ女の子たちと話したくてたまんねー!とかでもないから。あー。何言ってんだろ。』と恥ずかしそうに頭をかいてた
その仕草がなんだか遥にはツボだった
こらえきれずに声を出して笑ってしまった
『ぷっ!あはは…。あ!ごめん笑っちゃった…。』
『ちょっと、初対面で笑われるとかヘコむわぁ…。こりゃー今晩寝れないな。枕濡らすわ』と大袈裟に落ち込むリアクションをとる倉田
『ごめんごめん。そーいう意味じゃなくて、私と同じだなと思って。何か親近感がわいてさ』
『親近感?』
『そーなの。私は共学だったんだけど、そんな自分から男の子に話しかけるタイプじゃなかったから』
『じゃあ水沢さんは俺と仲間だわ。よろしく!』と優しく微笑みながら、倉田は笑われた意味が理解出来てほっとした様子だ
『よろしく。って言ってもまだこのサークルに入るか決めてなくて…。ね?由香里。』
『んー。今日は雰囲気を知れればいいなと思って来たんだよね。でも、みんな良い人たちだし入ってもいい感じだよね?』
既に由香里は入部する勢いだ
と、そこへ話を静かに聞いていた桜川が話し出す
『今日はあくまでも見学会と新歓コンパだから。入らなきゃいけないって気持ちにならなくてもいいよ。きっとここにいる新入生全員は入らないだろうし。まだ、時間はたっぷりあるから焦らず決めればいいよ。まぁ、早々決めちゃった奴らの前で言うのもアレなんだけどさ。』
桜川は横に座ってた二人を見る
その視線を感じ、佐伯は高らかに手をあげ椅子からも立ち上がり叫んだ
『そーなんだよ!俺らはこのサークル入ったから!テニスとかあんましたことないけど、ここのサークル楽しそうじゃん!?他にもテニサーはいっぱいあるけど、俺らはここに決めたんだよ!直感だね!何かありそうって予感がするんだよ!2人も入ろーぜ!!』
店内に響き渡った佐伯の声に驚き、その場の全員が会話を止めてしまい一斉に静かになった
その静寂の雰囲気と、バツの悪そうな佐伯を見て、なんだかおかしな雰囲気になり、どこからか笑い声が聞こえ、やがては店内の全員が笑った
そこへ部長の締めの言葉が入った
『こいつがビシッと入部宣言をした所で、そろそろ新歓コンパも時間が来たのでお開きにしようと思います。今日で我がピロティーの雰囲気が少しは分かっていただけてれば嬉しいです。入る人、入らない人いるとは思いますが出来るだけ楽しくワイワイやっていきたいんで!もちろん未経験者大歓迎。入部するともれなくこの騒がしい佐伯とも友達になれるから(笑)。皆さんと楽しい時間が過ごせるのを部員一同楽しみにしております!』
それを合図にして会が終わり、ぞくぞくと店の外に新入生が出ていく
『じゃー、俺らも帰りましょうかね!』と立ち上がる佐伯
遥も春物のコートとバッグを手に持ち、立ち上がろうとした時テーブルの足につまずいた
そのまま隣のテーブルに体ごとぶつかりそうな体勢になった
“わーっ!ぶつかる!!”
そう思ったが、荷物で両手がふさがっていた遥はただ目をつぶるコトしか出来なかった
『ハル危ない!!』
叫び声が聞こえ、遥は気がついたら誰かの腕の中にいた
目を開けると目の前には倉田の顔があった
抱え込んで助けてくれたのは正面に座っていた倉田だった
心配そうに遥の顔を覗き込む倉田の顔がとても近かった
そして、メガネの奥の瞳がキレイだった
吸い込まれそうになるくらい、とてもキレイな瞳
『いやー。良かった…。俺、心臓弱いんだからビックリさせないでよ…。』と冗談を言いながら、抱きしめていた遥の体をゆっくりと離した
『ケガしてない?』
『あ…。ごめん…。大丈夫。ありがとう。』
遥の心臓はドキドキしていた
倒れると思ったからなのか、男の子の顔をあんな近くで見たからなのか、それとも…。
遥自身にも、ドキドキの理由が分からなかった
ただ、あの澄んだ瞳がとてもキレイだったコトだけが、遥の心に残って記憶から消えなかった
