黒羽は、奏恵に後ろから抱きついた。

『こたえるまで絶対かえさないからね。』

甘い声で奏恵に言った。

奏恵は、ドキッとしたが、やっぱり怖かった。

『ホントにやめてって!』
奏恵は、黒羽の手から逃げようとした。
だが、それを予想していた黒羽は、奏恵を180度回転させて唇をかさねた。
奏恵の目は、大きくなった。きっと驚いたのだろう…。
奏恵の中の世界がかわった。
奏恵にとってのファーストキス…。奏恵は、怒りと悲しみでいっぱいになり、涙を流してしまった。

『私の…ファーストキス…だった…のに…。』

奏恵は、涙を流しながら黒羽をみた。
黒羽は、目をそらす。

『ごめん…。』

『……。』

奏恵は、まばたきせず、ずっと黒羽をみつめる。
黒羽は、まだ目をそらしている。

『こたえてくれ…。菊地なのか?』

『なんでこたえないといけないの?あんたなんかに…。』

そこから会話は、なくなった。
沈黙…。
5分後、奏恵は、帰ろうとして歩く。

『まって…。俺の話…聞いてくれない?』

『私がその話きいたらどうなる?』

『携帯、返すから…。』

『絶対?』

『うん。』

こうして黒羽の話が始まった。
『驚かないでね…。俺と菊地は、血がつながってるんだ…』

そう…黒羽と菊地のお母さんは、同一人物だった。

『俺の誕生日は、4月3日。あいつの誕生日は…』

『3月29日』

『しってるのか…お前…』

『しってるよ…。だって…』
奏恵は、続きをいわなった。

『なに?』

『…。』

『いいたくないならべつにいいけど…。俺…母親に捨てられたんだ。』

といって黒羽は、奏恵の後ろに置いてある棚の上をさした。
奏恵は、後ろを向いた。
黒羽が指差したものは、1枚の写真だった。
幼稚園児ぐらいの男の子とそのお母さん、お父さんが仲良くうつっていた。

『真ん中にいるのが俺。左がお母さん。右がお父さん。』
黒羽は、写真にうつる人物を説明した。

『この時は、幸せだったんだけどなぁ…』

『んっ?この時?』

『あぁ…この時は…。』

黒羽は、自分のことを話だした。
黒羽の父は、黒羽が6歳の時に交通事故で亡くなった。亡くなるまでは、毎日が幸せだった。しかし、黒羽の母は、旦那をなくしたとたん、夜は、帰ってこなくなった。1日中帰ってこない日もあった。そして、いつのまにか別の男と子どもをつくり、家をでていった。その子どもが、菊地爽太だった。


『菊地って…俺に似てるか?俺は、お母さん似ってよくいわれるんだ…。』

『わかんない…菊地のお母さんがどんな顔をしているのか…』

『アハハっ。そりゃそうだよな…。』

黒羽は、苦笑いをした。

『…。』

どう答えたらいいのか、わからなかった。答える前に黒羽と菊地のお母さんがどんな顔をしているのか、わからなかった。

『別の男とできた子どもが、俺と似てるわけないかぁ…』

黒羽は、下をむいた。
鼻をすする音が聞こえた。
『大丈夫?』

奏恵は、聞いた。すると黒羽は、奏恵に抱きついてきた。抱きついてきた瞬間、黒羽の目にたまっていた涙は、こぼれおちた。

『放して…涙がつくでしょ。』

『嫌だ…。このままがいい。』

『なんで?』

『だって…俺…お母さんにもお父さんにもこんなことしたことないから…。お願い…このままでいさせて…。』

『いいよ?』

奏恵は、いいよと言ってしまった。

『ありがとっ。』

黒羽は、嬉しかったのか、奏恵を強く抱きしめた。

奏恵は、小さい時に自分の母親から愛情をもらえていない黒羽が、かわいそうに思い、OKしてしまった。