それからどちらかが喋ることもなく、再び沈黙が走る。
「…事故?」
俺は彼女を見て言った。
「生まれつきであり……いえ、生まれつきです」
言いかけて彼女はハッとして口をつぐみ、キリッとした表情で言い直した。
「…そう……。ごめんね」
「え?」
何故あなたが謝るのか、とでも言いたげな顔をしていた。
まぁ、それもそうか。
なんて一人、納得する。
「や、俺も足が悪かったらその気持ち、少し分かると思ったんだけど」
ポロリと出たこの言葉は嘘じゃない。
だけど、本当にそれがありえるだろうか。
きっと、何日か眠ったままで起きたら足も治ってるだろう。
同情ですかと、冷たい視線が帰ってくるのだろう。
馬鹿らしいことを言ったものだ、と苦笑する。
だけど返ってきたのは、思ってもみなかった言葉だった。
「……不思議な方…」
「え?」
キョトンとして紫月が俺を見る。
「若旦那様は――」
「紫苑でいいよ」
「紫苑様はここがどういう場所か存じてらっしゃるのですか?」
怪訝な顔をして、彼女は俺をじっと見た。
「すれ違う人曰く、鬱憤晴らしとしか」
詳しくは知らない、と付け足すと、彼女は真剣な顔をして俺を無理矢理押し倒す。
悲しさが彼女の目に映っていた。
「…………………………」
「ここは女が色を売り、男が買う場所」
ふわりと、紫月からいい匂いが香った。
「そういう、場所です」
「……目が怯えてるよ」
俺は天井を背景に目の前にいる彼女に言う。
そんな彼女の目の中に、複雑な顔をした俺がいた。


