紅蓮の鬼外伝



「人数多くても俺が勝つ」


俺は胸を張って言う。


『ずいぶん余裕だな』


少し呆れているようなヤナセの声音がした。


「突然なんだぁ?随分とやる気満々な宣誓じゃねえか」


そして男が俺とヤナセの会話に口をはさむ。


だけど俺は彼の言葉を無視して、ヤナセと会話を続ける。


「なんてったって梔子様が直々に鍛えてくださったからなー」


『でも、その男が竜胆様のように強いヒトを連れて来たらどうするのサ?』


おどけていて、まるで子供のような声音だった。


「鍛える?オマエ柔道有段者とか、その類の人間か?」


興味津々に男が聞いてくるが、俺は彼と会話をしているわけではない。


無視を決め込んでいる。


「そん時は逃げるが勝ちだろ」


『うわ、犬が尻尾まいて逃げるのと同じなのサ』


ヤナセがドン引きしたような声で言い、男は「何言ってんだお前?」とでも言いたげな、訝しげな表情を俺に見せた。


「俺の話聞いてたか?」


慎重に、且つ、ゆっくりと、男が言う。


だけど俺は男と会話をしているのではなく、ヤナセと会話をしているのだ。


しつこいとは思うけど、もう一度言おう。


俺はヤナセと会話をしているのだ。


この男は無視無視。


「ここでヤナセ使ったらマズイだろ?」


『あー…だけどS』


「オマエ誰と話してんだ!!?」


ヤナセの言葉を遮って、男が超絶意味不明と書かれた顔を俺に向ける。


そんな時、後ろと前からダダダダダ…とヒトがたくさん来るような音がした。