「なぁ、兄ちゃん。誰が五月蝿いって?」
「え?」
肩をポンポンと叩かれて、後ろからそんな声がした。
振り返ると、目の前には煙草を片手に黒い眼鏡をかけている、態度のデカい男がいた。
「もしかして俺?」
「………………」
違うけど、この状況をどう説明すればいいのか分からず、俺は考えていた。
「おい、シカトしてんじゃねえよ」
彼は黙っている俺に嫌気がさしたのか、殴りかかってきた。
「おっと」
それを、ひょい、とかわす。
『ほほう、これが所謂カツアゲっていうヤツなんサ?』
ヤナセがまるで腕を組んで納得するような声音で言う。
「うーん……なんか違うような気もしないでもないけど…」
男は俺がかわしたことで頭に血が上ったらしく、ブンブンと腕を振り回して、俺に殴りかかろうとする。
『その言い方ややこしいのサ』
ひょいひょいかわしながら、俺の頭の中でヤナセの困ったような声音が聞こえる。
「クッソ!!!」
男が悔しそうに地団駄を踏んで、俺と距離をとる。
そして何やら四角い物を取り出し、それを耳に当てた。
「おい、オメーラ!今すぐいつもの場所に来いや!」
誰かに言うように叫んで、それをまた元のあった場所に片づける。
「へへっ」
その行為をした後の男の顔は、何故か勝ち誇った表情をしていた。
「……………」
『…オレ、一つ思ったんだけどサ』
「ん?今ならヤナセと意見が合いそうなんだけど」
俺がヤナセにそう言うと、男にその言葉が聞こえていたらしく、彼は「あんた誰と話してんだ」と言いたげな顔をしているのが目に入った。
『このヒトそんなに千秋と遊びたいのか?』
そんな疑問に包まれた彼の声音が、俺の頭の中で響いた。


